2022年、MB&Fは、計測の世界にさまざまな可能性を開くツインクロノグラフを搭載したレガシー・マシン シーケンシャル エヴォを発表しました。この画期的なクロノグラフは、これまでのクロノグラフの概念を見直してコレクターの心を掴み、同年に誰もが切望するジュネーブ ウォッチ グランプリ最優秀賞「エギュイユ・ドール」を受賞しました。
LM シーケンシャル エヴォは、MB&Fの黎明期からともに歩んできたフレンズの1人であり、2015年のLM パーペチュアルも手がけたステファン・マクドネルがクリエートしたもの。それまでなぜ存在しなかったのか、不思議に思うほど便利な時計の1つでした。複数の計測モードを使用すると、あらゆるものを計測することができます。2人の競技者の同時計測やトラック1周ごとの連続ラップタイム、さらにはオーブンに入れた2種類の料理の調理時間に至るまで、非常に実用的な使い方ができるのです。
けれども、LM シーケンシャル エヴォはさらにセンセーショナルな時計となるはずでした。ステファンとMB&Fがどうしても搭載したい機能がもう1つあったのです。それがフライバック機能でした。
ステファンのオリジナルの試作品に搭載されたムーブメントは、実際には左クロノグラフにフライバック システムが搭載され、その機能がLM シーケンシャル エヴォに組み込まれるはずでした。けれどもこの作品を完成させるのは非常に複雑で、試作期間は9か月、そのうち4か月はフライバック機能のみに費やされました。さらには、デザインの見直し6点とそれにともなうすべての作業とコンポーネント変更を考えると、実証されていない要素が非常に多く存在する中でフライバックを備えるウォッチをリリースするのは賢明ではないばかりか無謀でさえあるとマクドネルは感じました。
しかし構想の段階から温めていた夢を諦めたわけではありません。後からすべてを組み込めるよう設計されていたのです。クロノグラフは数種類の異なるデザインが可能でしたが、フライバックを搭載することができるのはこれらの構成のうち1つだけ。これによりクロノグラフの設計が抜本的に変更されました。
垂直クラッチの内部に組み込まれた宝石はシーケンシャル クロノグラフ全体の鍵となっています。新しいフライバック システムでも宝石は必須であり、それなしでは機能しません。このシステムは非常に繊細です。フライバックによってゼロ復帰がブロックされないよう、すべての摩擦を最小限に抑えるために多大な労力が費やされました。マクドネルはこれを達成するために、フライバック機構に宝石入りの特別なローラーを採用しました。こうした部品は宝石のサプライヤーから直接調達できないため、最初のプロトタイプでは、この画期的なメカニズム(特許取得済み要素5つのうちの1つ)の概念実証のために、マクドネルは自ら宝石を制作しました。
システムが長期にわたって十分な堅牢性を保つように、秘密を保持しながらテスト期間として2年間が費やされました。そして今、LM シーケンシャル フライバック プラチナは満を持してスタートを切ろうとしています!
その機能とは?
LM シーケンシャル フライバック プラチナはLM シーケンシャル エヴォと同じレイアウトで、2つのクロノグラフ表示を備えます。1つ目は9時位置に秒表示、11時位置に分表示を備え、もう1つは、3時位置に秒表示、1時位置に分表示を配しています。これらのクロノグラフは、ケースの両側面にあるスタート/ストップボタンとリセットボタンを使用して、それぞれを完全に独立して開始、停止、リセットすることができます。新しいフライバック機能では、リセットボタンを使って、対応するクロノグラフが作動している場合でもフライバック機能を作動させることができます。これらのプッシャーは、1つの時計に2つのクロノグラフ機構を搭載することから、4つのクロノグラフ・プッシャーを構成しているのが一般的です。
しかし、9時位置には5番目のプッシュボタン「ツインバーター」が配置されています。ステファンが「マジックボタン」と呼ぶこれこそが、LM シーケンシャル エヴォの持つ、既存のクロノグラフウォッチを超える性能の秘密なのです。このプッシュボタンは、両方のクロノグラフ装置を制御し、各クロノグラフの現在のスタート/ストップステータスを切り替えるバイナリスイッチとして機能します。これは、両方のクロノグラフが停止している場合、ツインバーターを押すと両方のクロノグラフが同時にスタートすることを意味します。両方が作動している場合は、ツインバーターよって停止させることができます。また、一方が作動中でもう一方が停止している場合、ツインバーターは作動中の方を停止し、停止している方を開始します。
実際の応用に関して以下に例を示しましょう。クロノグラフは、これらの機能によりさまざまなシーンで使用することができます。
1. 個別モード
食事を準備する際には、さまざまな材料をさまざまなタイミングで、異なる時間をかけて調理します。沸騰したお湯にパスタを入れるときに1つをスタートし、野菜をオーブンに入れるときにもう1つをスタートする、というように、2つのクロノグラフをそれぞれのプッシュボタンを使って操作します。このアプリケーションによって、プライベートのあらゆるシーンで効率アップを図ることができるのです。例えばジムでは、1つのクロノグラフをセットしてセッション全体のタイムを計測しながら、2つ目のクロノグラフでマシンごとのタイムやその間のダウンタイムを記録することにより、ワークアウトのルーチンを最適化できます。この例では、新しいフライバック機能は、リセットボタンを1回押すだけで計測シーケンスを迅速にリセットして再スタートすることができます。停止、リセット、再スタートという3つのステップを1度に行うことができるのです。
2. 同時計測モードまたはスプリットセコンドモード
このモードは、2人の競技者が同時に開始するレースなどの場合に使用できます。ユーザーは、ツインバーターを使用して両方のクロノグラフを完全に同時に開始でき、各クロノグラフが個別に備えるスタート/ストップボタンを押して複数のタイムを簡単に計測できます。事象の持続時間は、既存の多くのスプリットセコンドクロノグラフの限界である60秒を超えても問題ありません。このモードでは、新しいフライバック機能を、すぐに計測を再開したい場合にも使用できます。
3. 積算計測モード
オフィスで1日を通して2つの異なるプロジェクトを往き来しながら作業する際に、それぞれに費やす時間を知りたい場合などです。1つのタスクを開始するときに1つのクロノグラフをスタートさせ、次に別のタスクにシフトするときにツインバーターを使用する(最初のタスクに戻るときは再び切り替える)ことにより、各タスクに費やした累積時間を簡単に把握できます。もう1つの使用例として、チェスの試合のタイム計測もあります。
4. 連続計測モード(またはラップモード)
タイムを競うスポーツでは、このモードを使用して個別のラップタイムを測定することができます。競技開始時に1つのクロノグラフをスタートし、ラップタイム測定時にツインバーターを使用すると、次のラップタイムを測定するために2番目のクロノグラフが即座に起動し、最初のクロノグラフが停止し、タイムを記録するための十分な時間が確保できます。停止したクロノグラフはゼロにリセットされ、次のラップでツインバーターを使用して再スタートできるようになります。LM シーケンシャルは分積算計を搭載しているため、平均ラップタイムが1分を超えるスポーツイベント(モータースポーツの大部分を含む)で効果的に使用できます。
5. フライバックモード
フライバックは当初、パイロットが航空機の経路の地点間飛行時間を正確に計測できるよう、1930年代に開発されました。クロノグラフの停止、リセット、再スタートに時間がかかりすぎてナビゲーションにエラーが発生し、複数の行程を経る経路ではエラーが蓄積されてさらに間違いが多くなっていました。フライバック機能があればリセットボタンを1回押すだけで、停止、リセット、再スタートを同時に実行できるようになります。新しいフライバック機能をシーケンシャル キャリバーの他の計測モードと組み合わせると、さらに多くの機能が生まれます。たとえば、パイロットは1つのクロノグラフで全体の飛行時間を計測しながら、もう1つのクロノグラフでフライバック機能を使用して各区間の時間を正確に計測できます。
このエンジンを駆動するには
LM シーケンシャルには画期的な設計が採用されています。単一のムーブメント内に、いずれも同一の脱進機とオシレーターにリンクされた2つの独立したクロノグラフを搭載しています。従来のクロノグラフにエネルギー損失がともなうことはよく知られています。2つのクロノグラフを1つのムーブメントに搭載するとどうなるでしょうか?損失が2倍になり、許容できないほど性能を引き下げるおそれがあります。1つの時計ですべての機能を実現するには、いかなるエネルギー損失も引き起こすことのない、抜本的な新しいクロノグラフシステムを発明しなければなりません。
これは、内部に宝石を埋め込んだ革新的な垂直クラッチとそれに付随する制御装置を用いてLM シーケンシャルが行っていることにほかなりません。新しいフライバック機構には、宝石を組み込んだローラーも搭載されています。特許を取得したこれらのソリューションを用いることにより、シーケンシャル キャリバーはエネルギー効率と精度の点で従来のクロノグラフを超えるものとなっています。
歴史マニアのために
「クロノグラフ」の語源はギリシャ語に由来します。最初の部分は、「chronology(年表)」や「chronicle(年代記)」などに見られるように「時間」を意味する「χρόνος(クロノス)」から来ています。語尾の部分は「γρᾰ́φω(gráphō)」から派生したもので、何らかの記録を作成するために「記す」ことを意味します。「phonograph(蓄音機)」が記録された音を体系的に記述し、「photograph(写真)」が記録された光であるのと同様に、「クロノグラフ」は記録された時間を記録します。19世紀初頭、クロノグラフは競馬と関係が深く、スピーディーなスポーツのタイムを正確に測定する必要に応じて開発されました。こうした初期のクロノグラフは時間を記録するために文字盤上でインクの液滴を使用し、特定の時間を記録として残していました(少なくとも、次のレースのためにクロノグラフを止め、文字盤がきれいに拭かれるまでは)。
モーターレースの黎明期には、複数のクロノグラフ懐中時計を枠に取り付けて「複合操作レバー」によってすべての時計を同時に作動させる計測システムが用いられていました。ただし、いくつかの時計がわずかに異なるスピードで作動することが多く、このアプローチは根本的に精度に欠けていました。さらに、こうした厄介な装置を腕に装着することはとてもできません。
マキシミリアン・ブッサーは2016年、ステファン・マクドネルに相談します。レガシー・マシン パーペチュアル(2015年)の後続モデルの可能性を打診すると、ステファンは4語で返答しました。「I have an idea(考えがある)」。ステファン・マクドネルの頭脳から生まれたアイデアを知る者には、それはエキサイティングであると同時に謎めいた回答でした。マックスとの会話により、ステファンがそれまで熟考していたある一連の考えが加速しました。その考えとは、現代のクロノグラフの大部分が設計された機能を適切に実行できていないということ。
手動で操作する機械式クロノグラフで連続する競技を最高の精度で測定する方法として、操作レバーを組み合わせる案が即座に浮かび上がったのです。同時に作動できる2つの独立したクロノグラフを採用することで個別の計測が可能になり、結果を保存して記録するのに十分な時間が確保できるのです。鍵となるのは、すべての機能を1つの腕時計にまとめる方法を考案することでした。
この時から、さまざまな解決法が見出されました。2つの独立したクロノグラフを同一のオシレーターにリンクさせるというアイデアは、中央に配された宙に浮くようなテン輪を備えるレガシー・マシンのために実際に制作されたもので、異なるタイマー間のわずかなクロノメーター間の誤差を排除することができます。
ステファン・マクドネルは、理想的なビジョンを追求し、クロノグラフをさらに洗練されたものにしています。振幅調整用のフリクションスプリングを用いることなくクロノグラフ秒針の悪名高いズレを排除するために、クロノグラフの垂直クラッチをメインギアトレイン内に配するように構成し直しました。さらに、クロノグラフの内部に宝石を埋め込んだクラッチシャフトを組み込み、クロノグラフの作動時と非作動時の振幅の変化をなくすことにも成功しました。
理想的なクロノグラフを求めるステファン・マクドネルが加えた至高のタッチは、歴史的なクロノグラフ装置において複合操作レバーが担ってきた役割をさらに強化した「ツインバーター」のコンセプトです。クロノグラフの作動モードを瞬時に切り替える機能により、旧来のこの複雑機構を現代の日常生活のさまざまな状況で使用できるようになります。これは機械式時計製造のプログラミングに用いられる論理ゲートであり、レガシー・マシン パーペチュアルの核心をなす機械式プロセッサーの開発者だけが考案し得るものなのです。
ドリームメーカーとウォッチメーカーの出会い:マックスとステファンについて
MB&Fのストーリーを知る人なら、北アイルランド出身の時計職人ステファン・マクドネルが、マックス・ブッサーの最初の作品を世に送り出した主要人物の1人に数えられることをご存知でしょう。彼は、オロロジカルマシンN°1となる最初のいくつかのムーブメントを組み立てた、数少ない時計職人の1人です。
10年後、ステファン・マクドネルはMB&Fの世界に再び参入し、レガシー・マシン パーペチュアルを開発。これは、伝統的で名高い、高度な複雑機構の1つであるパーペチュアルカレンダーに対する画期的なアプローチです。彼の時計製造の哲学は、マックスの哲学と補完し合うもの。宇宙時代のファンタジーを手首に装着して現実に変えるマックスの哲学に対し、既成概念にとらわれないアプローチを実用的な時計にまで高めるアプローチなのです。
彼らは2人とも、多くの人が気付かなかった疑問に巧妙に答えるコツを知っています。LM シーケンシャル ツインバーターを人にも使用できるなら、そのパラレルな世界では、マックスとステファンがタグを組んでさらに時計製造の常識を覆すことでしょう。
MB&Fは創業20年に近づいています。ブランドの実現に尽力した人が、時計の正当性をさらに次の新しいレベルへと導くのにふさわしい時期です。LM シーケンシャルは単なる計測記録装置ではありません。マキシミリアン・ブッサーと、彼が生み出したブランド、そしてそこに最初からいた時計職人との間に生まれた歴史を記録するのです。
【概要】
2022年に発表されたLM シーケンシャル エヴォは、MB&Fの20番目のキャリバーであり、初のクロノグラフでした。この製品は、大きな技術革新と「ツインバーター」バイナリスイッチによる画期的な計測モードの組み合わせ(独立計測モード、スプリットセコンドモード、積算計測モード、ラップモード)を特徴とし、時計製造界で最も権威あるジュネーブ ウォッチ グランプリ最優秀賞「エギュイユ・ドール」を受賞しました。
新しいフライバック エディションは、前作のエヴォからさらに進化しています。モーターレースに関係する従来の計測モードに加えて、本来パイロットのために考案されたフライバック機能が追加され、シーケンシャルを空の世界へと導いています。
スカイブルーの文字盤プレートを備える新しいフライバック エディションは、よりクラシックなレガシー・マシンのスタイルを採用。ねじ込み式ラグとホワイトラッカー仕上げの文字盤(傾斜した時分文字盤を含む)のプラチナケースに収められ、レザーストラップを備えます。
シーケンシャルおよびシーケンシャル フライバックのムーブメントのデザインと開発は、数々の賞を受賞したLM パーペチュアルをMB&Fのためにクリエートしたステファン・マクドネルが手がけました。
LM シーケンシャル エヴォは、MB&Fの黎明期からともに歩んできたフレンズの1人であり、2015年のLM パーペチュアルも手がけたステファン・マクドネルがクリエートしたもの。それまでなぜ存在しなかったのか、不思議に思うほど便利な時計の1つでした。複数の計測モードを使用すると、あらゆるものを計測することができます。2人の競技者の同時計測やトラック1周ごとの連続ラップタイム、さらにはオーブンに入れた2種類の料理の調理時間に至るまで、非常に実用的な使い方ができるのです。
けれども、LM シーケンシャル エヴォはさらにセンセーショナルな時計となるはずでした。ステファンとMB&Fがどうしても搭載したい機能がもう1つあったのです。それがフライバック機能でした。
ステファンのオリジナルの試作品に搭載されたムーブメントは、実際には左クロノグラフにフライバック システムが搭載され、その機能がLM シーケンシャル エヴォに組み込まれるはずでした。けれどもこの作品を完成させるのは非常に複雑で、試作期間は9か月、そのうち4か月はフライバック機能のみに費やされました。さらには、デザインの見直し6点とそれにともなうすべての作業とコンポーネント変更を考えると、実証されていない要素が非常に多く存在する中でフライバックを備えるウォッチをリリースするのは賢明ではないばかりか無謀でさえあるとマクドネルは感じました。
しかし構想の段階から温めていた夢を諦めたわけではありません。後からすべてを組み込めるよう設計されていたのです。クロノグラフは数種類の異なるデザインが可能でしたが、フライバックを搭載することができるのはこれらの構成のうち1つだけ。これによりクロノグラフの設計が抜本的に変更されました。
垂直クラッチの内部に組み込まれた宝石はシーケンシャル クロノグラフ全体の鍵となっています。新しいフライバック システムでも宝石は必須であり、それなしでは機能しません。このシステムは非常に繊細です。フライバックによってゼロ復帰がブロックされないよう、すべての摩擦を最小限に抑えるために多大な労力が費やされました。マクドネルはこれを達成するために、フライバック機構に宝石入りの特別なローラーを採用しました。こうした部品は宝石のサプライヤーから直接調達できないため、最初のプロトタイプでは、この画期的なメカニズム(特許取得済み要素5つのうちの1つ)の概念実証のために、マクドネルは自ら宝石を制作しました。
システムが長期にわたって十分な堅牢性を保つように、秘密を保持しながらテスト期間として2年間が費やされました。そして今、LM シーケンシャル フライバック プラチナは満を持してスタートを切ろうとしています!
その機能とは?
LM シーケンシャル フライバック プラチナはLM シーケンシャル エヴォと同じレイアウトで、2つのクロノグラフ表示を備えます。1つ目は9時位置に秒表示、11時位置に分表示を備え、もう1つは、3時位置に秒表示、1時位置に分表示を配しています。これらのクロノグラフは、ケースの両側面にあるスタート/ストップボタンとリセットボタンを使用して、それぞれを完全に独立して開始、停止、リセットすることができます。新しいフライバック機能では、リセットボタンを使って、対応するクロノグラフが作動している場合でもフライバック機能を作動させることができます。これらのプッシャーは、1つの時計に2つのクロノグラフ機構を搭載することから、4つのクロノグラフ・プッシャーを構成しているのが一般的です。
しかし、9時位置には5番目のプッシュボタン「ツインバーター」が配置されています。ステファンが「マジックボタン」と呼ぶこれこそが、LM シーケンシャル エヴォの持つ、既存のクロノグラフウォッチを超える性能の秘密なのです。このプッシュボタンは、両方のクロノグラフ装置を制御し、各クロノグラフの現在のスタート/ストップステータスを切り替えるバイナリスイッチとして機能します。これは、両方のクロノグラフが停止している場合、ツインバーターを押すと両方のクロノグラフが同時にスタートすることを意味します。両方が作動している場合は、ツインバーターよって停止させることができます。また、一方が作動中でもう一方が停止している場合、ツインバーターは作動中の方を停止し、停止している方を開始します。
実際の応用に関して以下に例を示しましょう。クロノグラフは、これらの機能によりさまざまなシーンで使用することができます。
1. 個別モード
食事を準備する際には、さまざまな材料をさまざまなタイミングで、異なる時間をかけて調理します。沸騰したお湯にパスタを入れるときに1つをスタートし、野菜をオーブンに入れるときにもう1つをスタートする、というように、2つのクロノグラフをそれぞれのプッシュボタンを使って操作します。このアプリケーションによって、プライベートのあらゆるシーンで効率アップを図ることができるのです。例えばジムでは、1つのクロノグラフをセットしてセッション全体のタイムを計測しながら、2つ目のクロノグラフでマシンごとのタイムやその間のダウンタイムを記録することにより、ワークアウトのルーチンを最適化できます。この例では、新しいフライバック機能は、リセットボタンを1回押すだけで計測シーケンスを迅速にリセットして再スタートすることができます。停止、リセット、再スタートという3つのステップを1度に行うことができるのです。
2. 同時計測モードまたはスプリットセコンドモード
このモードは、2人の競技者が同時に開始するレースなどの場合に使用できます。ユーザーは、ツインバーターを使用して両方のクロノグラフを完全に同時に開始でき、各クロノグラフが個別に備えるスタート/ストップボタンを押して複数のタイムを簡単に計測できます。事象の持続時間は、既存の多くのスプリットセコンドクロノグラフの限界である60秒を超えても問題ありません。このモードでは、新しいフライバック機能を、すぐに計測を再開したい場合にも使用できます。
3. 積算計測モード
オフィスで1日を通して2つの異なるプロジェクトを往き来しながら作業する際に、それぞれに費やす時間を知りたい場合などです。1つのタスクを開始するときに1つのクロノグラフをスタートさせ、次に別のタスクにシフトするときにツインバーターを使用する(最初のタスクに戻るときは再び切り替える)ことにより、各タスクに費やした累積時間を簡単に把握できます。もう1つの使用例として、チェスの試合のタイム計測もあります。
4. 連続計測モード(またはラップモード)
タイムを競うスポーツでは、このモードを使用して個別のラップタイムを測定することができます。競技開始時に1つのクロノグラフをスタートし、ラップタイム測定時にツインバーターを使用すると、次のラップタイムを測定するために2番目のクロノグラフが即座に起動し、最初のクロノグラフが停止し、タイムを記録するための十分な時間が確保できます。停止したクロノグラフはゼロにリセットされ、次のラップでツインバーターを使用して再スタートできるようになります。LM シーケンシャルは分積算計を搭載しているため、平均ラップタイムが1分を超えるスポーツイベント(モータースポーツの大部分を含む)で効果的に使用できます。
5. フライバックモード
フライバックは当初、パイロットが航空機の経路の地点間飛行時間を正確に計測できるよう、1930年代に開発されました。クロノグラフの停止、リセット、再スタートに時間がかかりすぎてナビゲーションにエラーが発生し、複数の行程を経る経路ではエラーが蓄積されてさらに間違いが多くなっていました。フライバック機能があればリセットボタンを1回押すだけで、停止、リセット、再スタートを同時に実行できるようになります。新しいフライバック機能をシーケンシャル キャリバーの他の計測モードと組み合わせると、さらに多くの機能が生まれます。たとえば、パイロットは1つのクロノグラフで全体の飛行時間を計測しながら、もう1つのクロノグラフでフライバック機能を使用して各区間の時間を正確に計測できます。
このエンジンを駆動するには
LM シーケンシャルには画期的な設計が採用されています。単一のムーブメント内に、いずれも同一の脱進機とオシレーターにリンクされた2つの独立したクロノグラフを搭載しています。従来のクロノグラフにエネルギー損失がともなうことはよく知られています。2つのクロノグラフを1つのムーブメントに搭載するとどうなるでしょうか?損失が2倍になり、許容できないほど性能を引き下げるおそれがあります。1つの時計ですべての機能を実現するには、いかなるエネルギー損失も引き起こすことのない、抜本的な新しいクロノグラフシステムを発明しなければなりません。
これは、内部に宝石を埋め込んだ革新的な垂直クラッチとそれに付随する制御装置を用いてLM シーケンシャルが行っていることにほかなりません。新しいフライバック機構には、宝石を組み込んだローラーも搭載されています。特許を取得したこれらのソリューションを用いることにより、シーケンシャル キャリバーはエネルギー効率と精度の点で従来のクロノグラフを超えるものとなっています。
歴史マニアのために
「クロノグラフ」の語源はギリシャ語に由来します。最初の部分は、「chronology(年表)」や「chronicle(年代記)」などに見られるように「時間」を意味する「χρόνος(クロノス)」から来ています。語尾の部分は「γρᾰ́φω(gráphō)」から派生したもので、何らかの記録を作成するために「記す」ことを意味します。「phonograph(蓄音機)」が記録された音を体系的に記述し、「photograph(写真)」が記録された光であるのと同様に、「クロノグラフ」は記録された時間を記録します。19世紀初頭、クロノグラフは競馬と関係が深く、スピーディーなスポーツのタイムを正確に測定する必要に応じて開発されました。こうした初期のクロノグラフは時間を記録するために文字盤上でインクの液滴を使用し、特定の時間を記録として残していました(少なくとも、次のレースのためにクロノグラフを止め、文字盤がきれいに拭かれるまでは)。
モーターレースの黎明期には、複数のクロノグラフ懐中時計を枠に取り付けて「複合操作レバー」によってすべての時計を同時に作動させる計測システムが用いられていました。ただし、いくつかの時計がわずかに異なるスピードで作動することが多く、このアプローチは根本的に精度に欠けていました。さらに、こうした厄介な装置を腕に装着することはとてもできません。
マキシミリアン・ブッサーは2016年、ステファン・マクドネルに相談します。レガシー・マシン パーペチュアル(2015年)の後続モデルの可能性を打診すると、ステファンは4語で返答しました。「I have an idea(考えがある)」。ステファン・マクドネルの頭脳から生まれたアイデアを知る者には、それはエキサイティングであると同時に謎めいた回答でした。マックスとの会話により、ステファンがそれまで熟考していたある一連の考えが加速しました。その考えとは、現代のクロノグラフの大部分が設計された機能を適切に実行できていないということ。
手動で操作する機械式クロノグラフで連続する競技を最高の精度で測定する方法として、操作レバーを組み合わせる案が即座に浮かび上がったのです。同時に作動できる2つの独立したクロノグラフを採用することで個別の計測が可能になり、結果を保存して記録するのに十分な時間が確保できるのです。鍵となるのは、すべての機能を1つの腕時計にまとめる方法を考案することでした。
この時から、さまざまな解決法が見出されました。2つの独立したクロノグラフを同一のオシレーターにリンクさせるというアイデアは、中央に配された宙に浮くようなテン輪を備えるレガシー・マシンのために実際に制作されたもので、異なるタイマー間のわずかなクロノメーター間の誤差を排除することができます。
ステファン・マクドネルは、理想的なビジョンを追求し、クロノグラフをさらに洗練されたものにしています。振幅調整用のフリクションスプリングを用いることなくクロノグラフ秒針の悪名高いズレを排除するために、クロノグラフの垂直クラッチをメインギアトレイン内に配するように構成し直しました。さらに、クロノグラフの内部に宝石を埋め込んだクラッチシャフトを組み込み、クロノグラフの作動時と非作動時の振幅の変化をなくすことにも成功しました。
理想的なクロノグラフを求めるステファン・マクドネルが加えた至高のタッチは、歴史的なクロノグラフ装置において複合操作レバーが担ってきた役割をさらに強化した「ツインバーター」のコンセプトです。クロノグラフの作動モードを瞬時に切り替える機能により、旧来のこの複雑機構を現代の日常生活のさまざまな状況で使用できるようになります。これは機械式時計製造のプログラミングに用いられる論理ゲートであり、レガシー・マシン パーペチュアルの核心をなす機械式プロセッサーの開発者だけが考案し得るものなのです。
ドリームメーカーとウォッチメーカーの出会い:マックスとステファンについて
MB&Fのストーリーを知る人なら、北アイルランド出身の時計職人ステファン・マクドネルが、マックス・ブッサーの最初の作品を世に送り出した主要人物の1人に数えられることをご存知でしょう。彼は、オロロジカルマシンN°1となる最初のいくつかのムーブメントを組み立てた、数少ない時計職人の1人です。
10年後、ステファン・マクドネルはMB&Fの世界に再び参入し、レガシー・マシン パーペチュアルを開発。これは、伝統的で名高い、高度な複雑機構の1つであるパーペチュアルカレンダーに対する画期的なアプローチです。彼の時計製造の哲学は、マックスの哲学と補完し合うもの。宇宙時代のファンタジーを手首に装着して現実に変えるマックスの哲学に対し、既成概念にとらわれないアプローチを実用的な時計にまで高めるアプローチなのです。
彼らは2人とも、多くの人が気付かなかった疑問に巧妙に答えるコツを知っています。LM シーケンシャル ツインバーターを人にも使用できるなら、そのパラレルな世界では、マックスとステファンがタグを組んでさらに時計製造の常識を覆すことでしょう。
MB&Fは創業20年に近づいています。ブランドの実現に尽力した人が、時計の正当性をさらに次の新しいレベルへと導くのにふさわしい時期です。LM シーケンシャルは単なる計測記録装置ではありません。マキシミリアン・ブッサーと、彼が生み出したブランド、そしてそこに最初からいた時計職人との間に生まれた歴史を記録するのです。
【概要】
2022年に発表されたLM シーケンシャル エヴォは、MB&Fの20番目のキャリバーであり、初のクロノグラフでした。この製品は、大きな技術革新と「ツインバーター」バイナリスイッチによる画期的な計測モードの組み合わせ(独立計測モード、スプリットセコンドモード、積算計測モード、ラップモード)を特徴とし、時計製造界で最も権威あるジュネーブ ウォッチ グランプリ最優秀賞「エギュイユ・ドール」を受賞しました。
新しいフライバック エディションは、前作のエヴォからさらに進化しています。モーターレースに関係する従来の計測モードに加えて、本来パイロットのために考案されたフライバック機能が追加され、シーケンシャルを空の世界へと導いています。
スカイブルーの文字盤プレートを備える新しいフライバック エディションは、よりクラシックなレガシー・マシンのスタイルを採用。ねじ込み式ラグとホワイトラッカー仕上げの文字盤(傾斜した時分文字盤を含む)のプラチナケースに収められ、レザーストラップを備えます。
シーケンシャルおよびシーケンシャル フライバックのムーブメントのデザインと開発は、数々の賞を受賞したLM パーペチュアルをMB&Fのためにクリエートしたステファン・マクドネルが手がけました。
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